【デジタルスキル標準】激化する競争を勝ち抜く!DXを加速させる「人材戦略」の羅針盤

データ活用とデジタル技術の進化により、企業が競争優位を確立するためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現が不可欠です。しかし、多くの企業はDXを推進する人材不足という共通の課題に直面しています。
本記事では、この人材課題を解決し、全社的な変革を加速させるための羅針盤となる「デジタルスキル標準」(DSS)について解説します。
Contents
1. 競争優位を確立するために今、求められる変革の指針
データ活用とデジタル技術の進化は、産業構造を急速に変化させています。このような変化の中で、企業が競争上の優位性を確立するためには、顧客や社会の課題を捉え、データとデジタル技術を活用して製品、サービス、ビジネスモデル、そして業務そのものを変革する、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現が不可欠です。
しかし、多くの日本企業はDXの取り組みに遅れをとっているのが現状です。その大きな要因の一つとして、DXの素養や専門性を持った人材が不足していることが挙げられます。
この激しいビジネス環境を生き抜き、持続的な成長を遂げるためには、企業全体として変革への受容性を高めること、そして実際にDX戦略を推進できる専門性を持った人材を確保・育成することが重要となります。
こうした背景を踏まえ、個人の学習と企業の人材確保・育成の指針として策定されたのが、「デジタルスキル標準」(Digital Skill Standards, DSS)です。
2. デジタルスキル標準の全体像:2つの標準が支える人材戦略
デジタルスキル標準は、企業におけるDX推進を後押しするものであり、次の2種類の標準で構成されています。
DXリテラシー標準 : 全てのビジネスパーソンが身につけるべきスキルの標準。
DX推進スキル標準 : DXを推進する専門性を持った人材の役割や習得すべきスキルの標準。
デジタルスキル標準で扱う知識やスキルは、特定の産業や職種に偏らず、可能な限り汎用性を持たせた表現としています。このため、デジタルスキル標準を適用する際には、属する産業や事業の方向性に合わせて具体化することが求められます。

3. 全員で変革を受け入れる土壌を作る:DXリテラシー標準の力
DXリテラシー標準は、経営層を含む全てのビジネスパーソンを対象としています。その最大の狙いは、ビジネスパーソン一人一人がDXに関するリテラシーを身につけることで、DXを「自分事」として捉え、変革に向けて行動できるようにすることです。
リテラシー標準に沿って学ぶことで、組織・企業全体でDX推進に伴う変化への受容性が高まります。
DXリテラシー標準は、以下の4つの大項目で構成されており、それぞれに学習の指針が示されています。
3-1. Why:DXの背景の理解
DXの重要性を理解するために、以下の環境変化に関する知識を身につけます。
社会の変化:世界や日本社会で起きている変化(SDGs、Society 5.0、データ駆動型社会など)や、社会課題を解決するためのデジタル技術の有用性を知ること。
顧客価値の変化:顧客・ユーザーがデジタル技術によりどのように変わってきたか(情報アクセスやパーソナライズされたニーズの高まり)を知ること。
競争環境の変化:データ・デジタル技術の進展により、競争力の源泉が変わったり、従来の業種や国境の垣根を超えたビジネスが広がっていることを知ること。
3-2. What:DXで活用されるデータ・技術の知識
DX推進の手段としてのデータやデジタル技術の概要知識を深めます。
データ:「社会におけるデータ」の種類や活用、「データを読む・説明する」能力(基礎的な確率・統計の知識)、「データを扱う」手法(データ入力、整備、抽出、データベース等)、「データによって判断する」重要性(仮説構築、信頼性判断、モニタリング)など。
デジタル技術:AI(仕組み、得意分野・限界、最新動向)、クラウド(仕組み、提供形態)、ハードウェア・ソフトウェア、ネットワーク(基礎的な仕組み、インターネットサービス)など。
3-3. How:データ・技術の利活用
データ・デジタル技術の活用事例を理解し、実際に業務で利用するための知識と注意点を身につけます。
活用事例・利用方法:ビジネスにおけるデータ・デジタル技術の活用事例を知り、自身の業務への適用を想像すること。また、状況に合わせて適切なツールを選択し、その利用方法(日常業務ツール、生成AIツール、自動化ツールなど)に関する知識を持つこと。
留意点:「セキュリティ」の仕組みと個人がとるべき対策(機密性、完全性、可用性、パスワード管理など)、「モラル」に関する知識(データ捏造・盗用の禁止、情報漏洩の危険性など)、「コンプライアンス」の知識(個人情報保護法、著作権、諸外国のデータ規制など)を理解し、業務での利用時に確認できること。
3-4. マインド・スタンス:価値創造のための意識・行動
社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要な意識・姿勢・行動を定義しています。
特に重要な要素として、「変化への適応」(主体的な学び)、「常識にとらわれない発想」(従来のやり方を問い直す姿勢)、「反復的なアプローチ」(失敗を許容し小さいサイクルで改善する)、「柔軟な意思決定」(前例がない状況でも臨機応変に判断する)、そして「事実に基づく判断」(勘や経験ではなく客観的なデータに基づいて判断する)が挙げられます。

4. DXの加速に不可欠な専門人材の育成:DX推進スキル標準
DX推進スキル標準は、組織・企業において専門性を持ってDXの取り組みを推進する人材(DXを推進する人材)を対象としています。
この標準は、以下の5つの人材類型と、その下位区分である「ロール」、そして全てのロールに共通する「共通スキルリスト」から成り立っています。
人材類型:
ビジネスアーキテクト
デザイナー
データサイエンティスト
ソフトウェアエンジニア
サイバーセキュリティ
DXを推進するためには、これらの役割全てを最初から揃える必要はありません。事業規模やDXの推進度合いに応じて、一部の役割から揃えていくことが想定されています。
この標準を活用することで、「自社のDXを推進する人材としてどのような知識やスキルを持った人材が必要か」という人材の要件を明確化することができます。
5. 最新の動向への対応:生成AIとデジタルスキル標準の改訂
デジタルスキル標準は、今後中長期的に社会的インパクトがある技術の登場・普及を予想し、継続的に見直しが行われています。
特に、急速に普及する生成AIは、各企業のDXの進展を加速させ、競争力を向上させる可能性を秘めています。
この変化に対応するため、デジタルスキル標準は最新の技術動向を取り込んでいます。
5-1. DXリテラシー標準における生成AI対応 (2023年8月改訂)
全てのビジネスパーソンに求められるスキルとして、生成AI関連の学習項目が追加・強化されました。
AIに関する知識の拡充:「AI」の学習項目例に「生成AI」の技術動向や倫理等を追加。
利活用方法の明示:「データ・デジタル技術の活用事例」に生成AIの活用事例、「ツール利用」に生成AIツール概要・利用方法(プロンプトの手法など)を追加。
モラル・コンプライアンスの徹底:生成AIを利用する際には、情報漏洩や法規制、利用規約等に正しく対処することが求められるため、「モラル」にデータ流出の危険性、「コンプライアンス」に法規制や利用規約等の学習項目例を追加。
新たなマインド・スタンス:生成AIをビジネスパーソンとしてのスキルと掛け合わせ、生産性向上やビジネス変革へ適切に利用しようとする姿勢や、著作権等の権利侵害・情報漏洩、倫理的な問題等に注意する必要性を理解する姿勢が、新たなマインド・スタンスとして補記されました。
5-2. DX推進スキル標準における生成AI対応 (2024年7月改訂)
DXを推進する専門人材に求められる行動等についても、生成AIに関する変更(補記の追加等)が行われました。補記においては、実際に生成AIを用いる際には、権利侵害・情報漏洩、倫理的な問題等が無いよう十分に注意を払う必要があることも含まれています。
6. デジタルスキル標準を戦略に活かす具体的なステップ
デジタルスキル標準は、全社的なDXの方向性を基に人材確保・育成の取り組みを実行し、その成果を踏まえて方向性を見直していくというDX推進の循環を後押しします。
6-1. DXビジョン・戦略の明確化
デジタル技術による社会や競争環境の変化の影響を踏まえ、経営ビジョン及びビジネスモデルを設計します。そして、それを実現するための戦略、推進に必要な体制・組織、そして人材育成・確保の方針を策定します。
DXリテラシー標準の「Why(DXの背景)」を参考に、自社を取り巻く環境変化を踏まえたDXの必要性や方向性を社員に示すことが、全社的な底上げの第一歩となります。
6-2. 人材要件の定義と育成体系の検討
自社のDXを推進する上で、どのような知識やスキルを持った人材が必要か、DX推進スキル標準を用いて要件を明確化します。
また、DXリテラシー標準を参考に、社員に対してDXに関するリテラシーを身につけさせるための育成体系を検討する指針として活用します。自社のビジネスにとって重要なデータやデジタル技術を社員に示し、学ぶ機会を提供します。
6-3. 全社的な底上げ(DXの自分事化)の推進
企業全体として変革への受容性を高めるため、全社的な底上げが必要です。
経営層からのメッセージ発信:経営層からDXに関するリテラシーの重要性に関するメッセージを発信します。
マインド・スタンスの浸透:標準に記載のあるマインド・スタンス(変化への適応、コラボレーション、反復的なアプローチなど)を参考に、自社にとって特に重要となるマインド・スタンスを特定し、その浸透方法を検討します。組織風土や制度変革などの施策も検討し、社員が行動を変えやすい環境を作ります。
学習機会の提供:自社で既に活用しているツールや、データ・デジタル技術の活用事例、および「セキュリティ」「モラル」といった留意点について、学習機会を提供します。
【デジタルスキル標準】激化する競争を勝ち抜く!DXを加速させる「人材戦略」の羅針盤:まとめ
データとデジタル技術が競争の成否を分ける時代において、デジタルスキル標準は、DXを成功させるために、全てのビジネスパーソンが持つべき指針と、専門人材が担うべき役割を明確に示してくれます。
個々の組織・企業へのデジタルスキル標準適用にあたっては、その属する産業や自らの事業の方向性に合わせた具体化が求められます。まずは経営層がDXの必要性(Why)組織風土・構造の改革(マインド・スタンスの浸透)と、人材育成・確保の方針を策定・実行する循環を確立しましょう。
データとデジタル技術がビジネスの成否を分ける現代において、人材の重要性はかつてなく高まっています。デジタルスキル標準は、社員一人ひとりがDXを「自分事」として捉え、専門人材がその能力を最大限に発揮するための明確な道筋を示します。
デジタルスキル標準を羅針盤として活用し、具体的な行動計画と組織全体での実行サイクルを回すことで、激しい変化に対応できる強靭な組織へと進化を遂げることができるでしょう。
出典 厚生労働省:デジタルスキル標準ver.1.2DSS-L 2024年7月(https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/sbn8o100000049j7-att/000106869.pdf?utm_source=chatgpt.com)を加工して作成
