【有給休暇の時季変更権】従業員とのトラブルに注意

従業員が希望した有給休暇の取得日について、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、使用者が別の日に変更できる権利が「有給休暇の時季変更権」です。ただし、時季変更権は無制限に使えるものではありません。判断を誤ると、従業員との間でトラブルに発展する可能性があります。
この記事では、事例を交えながら、時季変更権をめぐる注意点を紹介します。
Contents
有給休暇の時季変更権とは
有給休暇は、原則として従業員が希望した日に取得できます。具体的な日付を指定すれば、その日が休暇日となり、会社の承認は原則不要です。
ただし、希望日に取得させることで「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者は別の日に変更できます。これが「有給休暇の時季変更権」です。
時季変更権が行使できるケース
使用者は、有給休暇の請求を受けた場合、まず代替要員の確保や勤務割の変更など、希望日に取得できるよう配慮する必要があります。
そのうえで、多くの従業員の休暇が同じ日に重なっている場合や、繁忙期・期限の迫った業務により代替要員の確保が著しく難しい場合など、事業の正常な運営に支障が出ると客観的に判断されるときには、時季変更権を行使できる可能性があります。
時季変更権が行使できないケース
一方で、以下のような場合には、時季変更権の行使が認められない、または認められにくいと考えられます。
変更後の取得日を確保できず、有給休暇が時効で消滅してしまう場合
退職日までに、別の取得日を確保できない場合
計画年休として、取得日が労使協定などであらかじめ決まっている場合
代替要員の確保や勤務割の変更など、希望日に取得できるよう配慮していない場合
明確な理由がない場合、慢性的な人手不足にすぎない場合、または単に業務が忙しいという程度の場合
なお、産後休業や育児休業など、労働義務がない日については、有給休暇の対象日にはなりません。そのため、時季変更権の問題とは分けて考える必要があります。
有給休暇の時季変更権とトラブル
時季変更権を使えるかどうかは、個別の事情に応じて慎重に判断する必要があります。有給休暇は会社の承認がなくても取得できるのが原則であるため、一方的に取得を認めない対応は、労務トラブルにつながるおそれがあります。
特に、変更を求める理由や代替日を十分に説明しない場合、従業員の反発を招き、紛争に発展することがあります。
トラブル事例
飲食店Yの従業員Aは店長代理として勤務していたが、8月25日に、9月15日から9月30日までの間、有給休暇を取得したいとして休暇届を提出しました。しかしYは同社の就業規則の規定により、有給休暇の取得は認められないと回答。
そこでAは、X労働組合に加入し、9月14日にYに年次有給休暇の取得を求めました。しかし、Yは「連続して3日以上の休暇取得は、原則として1か月前の届出をすることとする」との就業規則の規定に基づき、9月20日に再度認められないと回答しました。
さらに、既にAが休んだ日については欠勤扱いで無給とするとしたため、Xはあっせんを申請※しました。
※あっせんとは、労働関係をめぐる従業員と事業主のトラブルについて、学識経験者である第三者機関(あっせん委員)が間に入り、話し合いを促進することで、紛争の解決を援助する制度です。
労働側主張
1か月前に届出をしないと、3日以上の休暇が認められないのは厳しすぎる。
有給休暇を認め、賃金を支払うべきである。
休んだ期間を有給休暇として認めないのであれば、退職したい。
使用者側主張
就業規則で「連続して3日以上の休暇取得は原則として1か月前の届出をすることとする」と規定しており、1か月を切ってからの申請では、休暇を認めることはできない。
有給休暇の取得を認めていないため、休んだ期間については、欠勤扱いで無給とする。
人手不足で、シフトをやっと回している状態であり、Aに退職されては困る。
公労使各1名と事務局長があっせん員に指名され、あっせんが開催されました。
あっせんの結果
第1回のあっせんでは、労使双方から事情を聴き、それぞれの主張を確認しましたが、双方の意見は一致しませんでした。
第2回のあっせんでは、Yは、就業規則の定めを簡単に変えることはできず、Aの休暇を事後的に有給休暇扱いにすると、他の従業員に説明がつかないと主張しました。
しかし、Aに退職されては困るため歩み寄りたいとの意向を示したことから、あっせん員が金銭解決を提案しました。その結果、労使双方があっせん案に合意し、事件は解決しました。
トラブルを避けるには

明確な就業規則
就業規則には、有給休暇の取得手続きや、長期休暇を希望する場合の事前調整の方法を、合理的な内容で明確に定めておくことが重要です。
ただし、就業規則によって有給休暇の取得を過度に制限することはできません。基本的なルールを共有しつつ、従業員の休暇取得を不当に妨げない運用が求められます。
適切なコミュニケーション
時季変更権を行使する際には、事業運営にどのような支障が出るのかを具体的に説明し、可能な限り代替日を提示するなど、従業員と丁寧に調整することが重要です。
正確な有給休暇管理
有給休暇は、入社日などによって基準日や付与日数が従業員ごとに異なるため、管理が煩雑になりがちです。そのため、実務上は基準日を統一して管理する方法が用いられることがあります。
しかし、勤怠管理システムを導入すれば、基準日を統一している場合はもちろん、従業員ごとに基準日が異なる場合でも、有給休暇の付与・取得状況を把握しやすくなります。
シフト管理とあわせて運用することで、休暇希望の重なりや代替要員の確保状況も確認しやすくなり、年次有給休暇管理簿の作成や、時季変更権をめぐるトラブル防止にもつながります。
【有給休暇の時季変更権】従業員とのトラブルに注意:まとめ
有給休暇は、従業員に認められた権利です。一方で、希望日に取得させると「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者は例外的に時季変更権を行使できます。
ただし、その判断は慎重に行う必要があります。慢性的な人手不足や、単に忙しいという理由だけでは、認められない可能性があります。
企業は、有給休暇の取得状況を正確に管理し、代替要員の確保やシフト調整を行いやすい体制を整えておくことが重要です。また、有給休暇の計画的付与制度を活用し、従業員が休暇を取得しやすい環境を整えることも求められます。
参照記事:有給休暇の計画的付与で休みやすい環境を
出典・参考資料:
厚生労働省 中央労働委員会「長期の年次有給休暇の請求と時季変更権行使」(https://www.mhlw.go.jp/churoi/assen/dl/jirei28.pdf)を加工して作成
厚生労働省「確かめよう労働条件|年次有給休暇」(https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/study/roudousya_yukyu.html)を参照
