【過労死の現状】令和6年過労死等防止対策白書をわかりやすく解説

テクノロジーの進化や働き方の多様化が進む現代においても、過労死の問題は私たちにとって大きな課題です。令和6年版過労死等防止対策白書では、従来の運輸、飲食、建設、医療といった長時間労働が常態化しやすい業種に加えて、DX推進や芸術・芸能分野といった新たな領域においても、過労死のリスクが浮き彫りになってきました。
このブログでは、令和6年版過労死等防止対策白書の内容を基に、変化する社会における新たな過労死リスクの実態と、私たちが取るべき対策について考えていきます。
Contents
労働時間等の状況
長時間労働の現状
週労働時間が60時間を超える雇用者の割合は、全体的には減少傾向にありますが、令和5年時点でも8.4%と依然として高い水準です。これは、週1.5日分もの残業をしている計算となり、肉体的にも精神的にも大きな負担がかかっていることが想像できます。
業種別に見ると、「運輸業,郵便業」(15.9%)、「宿泊業,飲食サービス業」(11.6%)、「建設業」(11.4%)で長時間労働の割合が高い傾向にあります。これらの業種は、人手不足や業務の繁閑差が激しく、長時間労働が発生しやすい構造的な問題を抱えていると考えられます。

勤務間インターバル制度の導入状況
勤務間インターバル制度は、労働時間と次の勤務開始時間までの間に一定時間の休息を設ける制度で、労働者の疲労回復や心身の健康確保に有効な手段として期待されています。しかし、制度の導入企業割合は令和5年時点で6.0%と、まだ十分に普及しているとは言えません。制度導入には、業務の効率化や人員配置の見直しなど、企業側の積極的な取り組みが必要となります。
年次有給休暇の取得率は増加傾向にありますが、令和4年時点で62.1%と、政府目標の70%には達していません。休暇取得を促進するためには、企業文化の改革や取得しやすい環境づくりが求められます。

職場におけるメンタルヘルス対策の状況
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は60%前後で推移しており、令和5年時点では63.8%です。しかし、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスを抱えている労働者の割合は、令和5年時点で82.7%と非常に高い水準です。このことから、メンタルヘルス対策の実施率は向上しているものの、労働者の多くが依然として仕事によるストレスを抱えている実態が明らかになりました。
特に、労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェックの実施割合は低く、令和5年時点では34.6%にとどまっています。小規模事業場では、メンタルヘルス対策の専門知識を持つ担当者が不足している場合が多く、外部機関との連携など、支援体制の強化が重要となります。

過労死等の現状
労災補償の状況
過労死等に係る労災支給決定(認定)件数は、脳・心臓疾患、精神障害ともに増加傾向にあります。これは、長時間労働や職場におけるストレスが深刻化している現状を反映していると考えられます。
特に、精神障害による労災認定件数は令和元年度以降増加傾向が顕著で、令和5年度は883件に達しています。また、自殺(未遂を含む)件数も増加しており、令和5年度は79件となっています。精神障害による労災認定は、業務と発症との因果関係の立証が難しく、潜在的な被害件数はさらに多いと推測されます。
医療従事者の過労死問題
医療従事者、特に医師と看護師は、近年、過労死等による労災支給決定(認定)件数が増加傾向にあります。医療現場では、慢性的な人手不足や長時間労働が問題となっており、医師や看護師の心身の健康が脅かされている状況が浮き彫りになりました。
精神障害による労災認定の要因として、医師は「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事」、看護師は「悲惨な事故や災害の体験、目撃」が最も多く挙げられています。医師は、診療科の変更や責任の重い業務への配置転換など、仕事内容の変化に伴うストレスが大きく、看護師は、患者の死に直面するなど、精神的な負担が大きい業務内容が要因となっていると考えられます。

DX等先端技術担当者の労働状況
DX等先端技術担当者は、先端技術非担当者に比べて、労働時間が長く、うつ傾向・不安を抱えている割合が高い傾向にあります。DXの推進に伴い、新たな技術習得や業務量の増加、成果へのプレッシャーなど、労働者に大きな負担がかかっている可能性が示唆されました。
先端技術関連の仕事に就くにあたり、「いままで担当していなかった先端技術関連の仕事に就いたために、技術の習得に時間がかかった」(29.6%)、「通常の仕事に加えて先端技術関連の仕事も行うこととなり、仕事の負担が増加した」(23.0%)など、負担を感じている人が多いという結果が出ています。企業は、適切な教育訓練や労働時間管理、休暇取得の推奨など、労働者の負担軽減に向けた対策を講じる必要があります。

芸術・芸能従事者の労働状況
芸術・芸能従事者(スタッフ)は、一般就業者全体に比べて、拘束時間が長く、うつ傾向・不安を抱えている割合が高い傾向にあります。また、スケジュール上の休日数が少なく、週1日相当以下の者が38.5%~60.4%存在するという結果も出ています。芸術・芸能分野は、労働時間管理が難しく、長時間労働や不規則な勤務が常態化している場合が多いことが課題として挙げられます。
ハラスメントの経験についても、「仕事の関係者に、心が傷つくことを言われた」(51.0%)が最も多く、次いで「仕事の関係者から殴られた、蹴られた、叩かれた、または怒鳴られた」(44.0%)、「仕事の関係者に必要以上に体を触られた」(26.3%)など、身体的・精神的な暴力やセクシュアルハラスメントの被害も深刻な状況です。業界全体で、ハラスメント防止に向けた意識改革や対策の強化が急務と言えるでしょう。

過労死等の防止のための対策
労働行政機関等における対策
令和6年4月からは、建設業、自動車運転業務、医師等にも時間外労働の上限規制が適用されるなど、過労死等防止の機運も高まってきています。しかし、長時間労働対策に加え、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策の重要性が一層増しているという課題も指摘されています。
具体的な対策としては、時間外労働の上限規制の遵守徹底、過労死等を繰り返し発生させた企業に対する再発防止指導の強化、メンタルヘルス対策、ハラスメント防止対策、フリーランス等対策の強化、国民への周知・啓発などが挙げられています。
企業における対策
企業は、労働時間の適正な把握と削減、年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入促進、メンタルヘルス対策、ハラスメント防止対策など、従業員の健康と安全を守るための対策を講じる必要があります。
白書では、「労働時間以外の負荷要因」として、「勤務間インターバルが短い勤務」や「拘束時間の長い勤務」、「不規則な勤務・交替勤務・深夜勤務」などが挙げられており、これらの要因にも適切に対処していく必要があります。
また、事業場に対するアンケート調査では、「納期に困難のある契約内容」や「人員確保に困難のある契約内容」を経験した企業が多いという結果が出ており、取引先との関係性を見直し、無理のない契約を結ぶことが重要です。

【過労死の現状】令和6年過労死等防止対策白書をわかりやすく解説:まとめ
以前、コロナ禍において、令和2年版過労死等防止対策白書を元にした記事を紹介しました。
【過労死対策】労働時間管理の徹底を
この令和2年版過労死等防止対策白書の分析結果と今回を比べ、一定の改善が見られるものの、運輸、飲食、建設、医療といった長時間労働が常態化しやすい業種においては、依然として課題が残っているのが現状です。それに加え、今回はDX推進や芸術・芸能分野といった新たな領域においても課題が浮き彫りになりました。
また、依然として過労死等事案による労災請求・支給決定件数は増加傾向にあり、長時間労働対策に加え、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策の重要性が一層増しています。さらに、働き方の多様化が進む中、フリーランス等の就労実態や健康確保、ハラスメントの状況等にも目を向ける必要があります。
過労死は、決して他人事ではありません。私たち一人ひとりが、過労死問題の深刻さを認識し、自分自身の働き方を見直し、健康的な労働環境を築いていくことが重要です。
政府、企業、労働者、そして社会全体が協力し、過労死のない社会の実現を目指していく必要があるでしょう。
厚生労働省:令和6年版過労死等防止対策白書(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314851.pdf)を加工して作成
