有給取得率が低い理由|人手不足が深刻な企業こそ対策を

有給取得率

厚生労働省の就労条件総合調査によると、2023年1年間の有給取得率は65.3%となり過去最高となりました。有給取得率※が低いことは企業にとって長年の課題となっていましたが、毎年少しずつ政府目標である70%に近づいています。

この記事では、さらに有給取得率をあげていくため、有給取得率が低い理由を探り、その解決策を紹介していきます。

※有給取得率=年次有給休暇取得率 以下同様

日本の有給取得率は世界最下位

2023年の1年間に企業が付与した有給休暇日数(繰越日数を除く)は、労働者1人平均は16.9日。このうち労働者が取得した日数は 11日であり、有給取得率※は 65.3%となり、1984年以降最も高くなっています。※有給取得率は(取得日数計/付与日数計)×100%

厚生労働省令和5年就労条件総合調査の概況

出典:厚生労働省令和6年就労条件総合調査の概況

政府は2010年に「新成長戦略」で2020年までに年次有給休暇取得率70%を達成する目標を設定しました。しかし、この目標は達成されませんでした。
その後、目標年は2025年に延長されましたが、さらに達成が難しいと判断され、現在は2028年までに70%の取得率を目指すことになっています。

毎年少しずつ政府目標である70%に近づいているとはいえ、一方、日本の有給休暇の取得率は世界最下位という調査結果があります。

エクスペディアが実施した「有給休暇の国際比較調査」によると、2023年の日本で働く人の有給休暇の支給日数が平均19日間、そのうち平均で12日間の有給休暇を取得しており、取得率は63%でした。この取得率は世界11地域のなかで最も低く、最下位となりました。

引用元:エクスペディア 世界11地域 有給休暇・国際比較調査2024を発表(https://www.expedia.co.jp/stories/vacation-deprivation2024/)

有給取得率の産業による違い

有給取得率を産業別にみると、鉱業・採石業・砂利採取業、電気・ガス・熱供給・水道業、製造業などの有給取得率が70%以上と高い一方、宿泊業・飲食サービス業、複合サービス事業、教育・学習支援業は、約50〜57%と大きな差があります。

有給休暇取得率が高い産業は、製造業やインフラ系産業に代表されるように、企業規模が大きいこと、比較的労働環境が整備されていること、労働組合の活動が活発であること、そして人員配置に余裕があることなどが理由として挙げられます。

一方、取得率が低い産業は、宿泊業や飲食サービス業のように、人手不足が深刻、繁忙期と閑散期の差が大きい、顧客対応が中心で代替要員を確保しにくいことなどが主な要因と考えられます。また、非正規雇用労働者の割合が高いことも、有給休暇取得率に影響を与える重要な要素として見逃せません。

労働者1人平均有給休暇の取得状況

労働者1人平均年次有給休暇の取得状況

有給取得率が低い理由:取得へのためらい

有給取得率が低い原因は、全体の約4割の労働者が有給休暇の取得にためらいを持っていることが大きいようです。

年次有給休暇の取得にためらい

資料出所:令和5年度「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査
出典:厚生労働省 年次有給休暇取得促進特設サイト(https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuuka-sokushin/jigyousya.html)

人手不足の企業では、他の従業員に迷惑がかかると感じる人が多く、それが有給取得率が低くなる結果に関連しているようです。

有給取得率が低い産業こそ有給取得率向上が必要

有給取得率が低い産業の課題

  • 人手不足: 人員に余裕がなく、誰かが休むと業務が回らない。

  • 繁忙期と閑散期の差: 繁忙期に業務が集中し、休暇取得が困難。

  • 顧客対応中心: 顧客対応は代替が難しく、担当者が休みにくい。

  • 代替要員確保の困難さ: 業界全体で人手不足のため、派遣やパートでの補充も難しい。

人手不足が深刻な産業や小規模企業でこそ、有給取得率の向上が求められる理由として、主に以下の3つが挙げられます。

1. 従業員の定着率向上と人材確保

離職の抑制

人手不足の産業や小規模企業では、一人当たりの業務負担が大きくなりがちで、休暇が取りにくい状況が慢性化しやすいです。このような環境は従業員の疲弊を招き、結果として離職につながる可能性を高めます。

特に、人材獲得が困難な状況下では、既存従業員の離職は経営に大きな打撃となります。有給休暇を取得しやすい環境を整備することは、従業員の心身のリフレッシュを促し、仕事へのモチベーションを維持させ、結果として定着率向上に貢献します。

採用競争力の強化

求職者は、給与や福利厚生だけでなく、ワークライフバランスを重視する傾向が強まっています。有給休暇の取得率が低い企業は、求職者から「働きにくい会社」と見なされ、人材獲得競争において不利になります。特に人手不足の産業では、限られた人材を確保するために、休暇取得しやすい環境をアピールすることが、採用活動において重要な差別化要因となります。

2. 生産性向上とサービス品質の維持

疲労によるパフォーマンス低下の防止

十分な休息を取れないまま働き続けると、集中力や判断力が低下し、ミスが増加したり、生産性が低下したりします。
特に顧客対応が中心の業務では、従業員の疲労はサービス品質の低下に直結し、顧客満足度を損なう可能性があります。計画的な有給休暇の取得は、従業員のリフレッシュを促し、心身の健康を維持することで、パフォーマンスの向上と安定的なサービス提供につながります。

代替要員確保の必要性の低減

有給休暇を取得しやすい体制が整っていない場合、「休むと周りに迷惑がかかる」という意識から、従業員は無理をして働き続けようとする傾向があります。
しかし、無理な働き方は、体調不良による急な欠勤や、結果としての長期離職につながるリスクを高めます。計画的な休暇取得を推奨し、チーム内で業務をカバーし合う体制を構築することで、特定の人に業務が集中する状況を避け、代替要員を常に確保する必要性を低減できます。

3. 社会的責任の履行

法令遵守と企業倫理

労働基準法で定められた有給休暇の取得は、企業の法的義務です。取得率が低い状態を放置することは、法令違反となるだけでなく、企業倫理の面でも問題視されます。
特に、社会的に企業責任が重視される現代において、従業員の権利を尊重し、適切な労働環境を提供することは、企業の信頼性向上に不可欠です。

企業イメージの向上

従業員のワークライフバランスを重視し、有給休暇取得を積極的に推奨する企業は、「従業員を大切にする企業」として社会的な評価を高めます。良好な企業イメージは、顧客からの信頼獲得や優秀な人材の採用につながり、企業の持続的な成長を支える基盤となります。

このように、人手不足が深刻な産業や小規模企業こそ、有給取得率向上への対策は、単に従業員の福利厚生を向上させるだけでなく、企業の持続可能性を高めるための重要な経営戦略と言えます。
厳しい経営環境下であっても、従業員を大切にする姿勢を示すことが、結果として企業の競争力強化につながるのです。

有給取得率が低い産業の有給取得率向上対策

人手不足が深刻で、繁忙期と閑散期の差が大きく、顧客対応が中心となる宿泊業・飲食サービス業、複合サービス事業、教育・学習支援業などの産業では、有給休暇取得率の向上が大きな課題となっています。これらの業種特有の条件を考慮しつつ、有給取得率向上のための効果的な対策を紹介します。

1. 計画的な有給休暇取得の推進

計画的付与制度の導入

計画的付与制度は、企業が従業員の有給休暇取得日を指定する制度で、有給取得率向上に効果的です。
例えば、宿泊業では閑散期に合わせて従業員の休暇を計画的に設定することで、業務への影響を最小限に抑えつつ、有給取得を促進できます。教育・学習支援業では、長期休暇期間の前後に有給休暇を設定することで、連続休暇を実現し、従業員のリフレッシュにつながります。

有給休暇の計画的付与制度がある企業割合は43.9%となっており、これを計画的付与日数階級別にみると「5~6日」が 72.4%と最も高くなっています。

年次有給休暇の計画的付与制度の有無、計画的付与日数階級別企業割合

年次有給休暇の計画的付与制度

出典:厚生労働省 令和5年就労条件総合調査の概況

「有給休暇の計画的付与制度」では、前もって計画的に休暇取得日を割り振るため、労働者はためらいを感じることなく有給休暇を取得することが可能。

有給休暇の付与日数は法律で決まっていますが、発生の日から2年間で時効により消滅してしまいますので、従業員が有給休暇を残らず取得するために計画的付与制度が有効です。

詳しい解説はこちら:【有給休暇の計画的付与】働きやすく休みやすい職場環境に

時間単位の有給休暇制度の導入

時間単位での有給休暇取得を可能にすることで、従業員が柔軟に休暇を取得しやすくなります。
特に飲食サービス業や複合サービス事業など、シフト制の勤務が多い業種ではこの制度が有効です。例えば、午前中のみ休暇を取得して午後から出勤するなど、個人の都合に合わせた休暇取得が可能になり、取得率の向上につながります。

詳しい解説はこちら:時間単位年休を有効活用しよう!

業務の平準化と従業員の育成

繁忙期と閑散期の差が大きい業種では、業務の平準化が重要です。例えば、宿泊業では予約システムの改善によりピーク時の負荷を分散させたり、オフシーズンの新たなサービス開発により年間を通じた需要の安定化を図ることができます。
また、従業員が複数の業務をこなせるよう育成することで、特定の従業員に業務が集中することを防ぎ、休暇を取得しやすい環境を整えることができます。

代替要員の確保と業務マニュアルの整備

顧客対応が中心の業種では、代替要員の確保が課題となります。これに対しては、業務マニュアルの整備が効果的です。詳細な業務手順を文書化することで、経験の浅い従業員でも一定レベルの業務遂行が可能になります。
また、クロストレーニングを実施し、部門を超えた業務の相互理解を促進することで、柔軟な人員配置が可能になり、休暇取得の障壁を低くすることができます。

ITツールの活用による業務効率化

人手不足が深刻な業種では、ITツールの活用による業務効率化が有効です。例えば、飲食サービス業におけるセルフオーダーシステムの導入や、教育・学習支援業でのオンライン授業の活用など、テクノロジーを駆使することで人的リソースの最適化を図り、結果として有給休暇取得の余地を生み出すことができます。

以上の対策を総合的に実施することで、これらの産業における有給休暇取得率の向上が期待できます。
ただし、各企業の特性や従業員の意識、顧客ニーズなどを十分に考慮し、自社に最適な方法を選択・実施することが重要です。有給取得率向上は、従業員の満足度向上や生産性の向上にもつながり、ひいては企業の競争力強化にも寄与する重要な取り組みです。

制度を形骸化させないために

せっかく有給取得率向上のための制度を導入したにもかかわらず、これが形骸化してしまうと、従業員の不満を招き、有給取得促進の効果が全く見られないばかりか、かえって逆効果になる可能性すらあります。
制度が形骸化するということは、形ばかりが整っていても、実質的な運用が伴っていない状態を指します。具体的には、以下のような状況が考えられます。

休暇計画は立てるものの、実際には取得できる雰囲気ではない

  • 繁忙期を理由に計画年休の取得を暗に禁止されたり、取得申請をしても形式的に却下はされないものの、様々な理由をつけて事実上取得を諦めざるを得ない状況になる。

  • 周囲の同僚が忙しそうに働いている中で、自分だけが計画年休を取得するのは気が引ける、という心理的な圧力がかかる。

  • 計画年休を取得したとしても、休暇中も電話やメールで絶え間なく業務連絡が入り、休息にならない。

  • 制度はあるものの、従業員への十分な説明やフォローがない。

制度の内容が複雑で分かりにくく、従業員が制度をきちんと理解できていない

  • 制度に関する説明会などが形式的に行われるだけで、従業員の疑問や不安に個別に対応する機会が設けられていない。

  • 制度導入後の運用状況のモニタリングや改善が全く行われず、放置された状態になっている。

このような状態に陥ると、従業員は「会社は形式的に制度を作っただけで、本気で有給取得を促進する気はないんだな」と感じてしまいます。

制度を形骸化させないためには、制度導入は単なる形式ではなく、働き方改革の一環として、経営層が本気で有給取得を促進する意思を示す必要があります。

従業員との双方向的なコミュニケーションを密にすること

制度導入の目的やメリットを丁寧に説明し、従業員の疑問や不安に真摯に耳を傾け、一対一での対話も重視する。

実効性のある運用体制を構築すること

計画年休を取得しやすい雰囲気を作り、業務の再分配や代替要員の確保、業務の標準化など、制度を効果的に運用するための具体的な対策を実行する。

継続的なモニタリングと改善

制度導入後も、従業員の有給取得状況や制度への意見を定期的にモニタリングし、課題があれば原因を分析し、改善策を実行し続ける。

計画的付与制度は、適切に運用すれば有給取得率向上に効果を発揮しますが、形式的な導入だけでは形骸化し、逆効果になるリスクも孕んでいます。制度を成功させるためには「運用こそが重要である」 ということを常に念頭に置き、経営陣を中心に取り組みを継続していくことが不可欠です。

正確な労務管理を行う

時間単位の有給休暇制度や有給休暇計画的付与制度の導入は、個別の対応が求められ、手続きが煩雑になります。
これは、個人毎の集計ルール設定や、有給休暇の付与・消滅、半日有給・時間勤務者の有給処理の機能を持つ、勤怠管理システムの導入で解決できます。

比較的小規模な企業では、勤怠管理システム導入費やランニングコストがハードルになるかもしれませんが、月額1人110円という低コストのサービスもあります。シンプルで基本的な機能が充実した勤怠管理システムがおすすめです。

個人毎の集計ルール設定
有給休暇の付与・消滅、半日有給・時間勤務者の有給処理
複数拠点での使用可 月額1人100円(税込110円)〜の料金

有給取得率が低い理由|人手不足が深刻な企業こそ対策を:まとめ

人手不足が深刻な企業にとって、有給取得率の向上は、一見すると更なる負担増のように感じるかもしれません。
しかし、それは人材確保と定着のための効果的な施策です。
有給取得しやすい環境は、従業員のエンゲージメントを高め、離職率を低下させます。結果として、採用コスト削減、生産性向上、そして企業全体の競争力強化に繋がります。
厳しい状況だからこそ、従業員を大切にする姿勢を示し「選ばれる企業」となるために、有給取得促進に戦略的に取り組みましょう。

厚生労働省:令和6年就労条件総合調査の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/24/dl/gaikyou.pdf)を加工して作成