激変する時代を乗り越える!2025年版中小企業白書から読み取る成長戦略

中小企業白書

現在、多くの中小企業・小規模事業者が、円安・物価高の継続、30年ぶりの「金利のある世界」の到来による生産・投資コストの増加、そして構造的な人手不足という、依然として厳しい状況に直面しています。特に、輸出よりも輸入比率が高く、借入金依存度も高い中小企業にとっては、これらの要因が利益を下押しするリスクとなります。

こうした激変する環境下で成長を遂げるためには、従来のコストカット戦略は限界を迎えており、自社の現状を正確に把握し、適切な対策を講じる「経営力」の向上が不可欠です。2025年版中小企業白書では、この「経営力」を、個人特性、戦略策定、組織人材の三つの観点から分析し、厳しい時代を勝ち抜くための具体的な指針を示しています。
本記事では、中小企業が直面する課題を乗り越え、持続的な成長を実現するために必要な「経営力」向上のポイントと、具体的な成長戦略について、2025年版中小企業白書のポイントをまとめ、簡潔に解説します。

1. 厳しい外部環境への対応と「稼ぐ力」の強化

コスト増への対応:価格転嫁と差別化戦略の重要性

物価、金利、人件費の上昇に直面する今、中小企業は付加価値や労働生産性を高める経営へと転換していく必要があります。その中心となるのが、「適切な価格設定・価格転嫁の推進」です。

価格転嫁の状況を見ると、「原材料」「労務費」「エネルギー費」といった各コストの転嫁率は上昇傾向にあり、「コスト全般」の転嫁率は直近で5割程度まで上昇していますが、さらなる実現が期待されています。特に、サプライチェーンにおける取引段階が最終製品・サービスを提供する企業に近い「1次請け」から下流に行くほど、「価格転嫁率を0割」と回答した割合が高まる傾向にあり、価格転嫁が進みづらい実態があります。

この課題を克服し、収益を向上させるためには、自社製品・サービスの差別化と市場環境への意識が重要であることが示唆されています。

■>価格転嫁の状況(差別化への意識・市場環境への意識の有無別)

価格転嫁の状況

差別化と市場環境の両方を意識している事業者は、価格転嫁が進んでいる傾向にあります。また、マークアップ率(名目限界費用に対する販売価格の比率)の分析でも、マークアップ率が高い企業ほど、経常利益率や設備投資額、賃金水準が高い傾向にあり、適切な価格設定による好循環を実現できている可能性が推察されます。

まずは、自社の経営資源を活かした独自性のある製品・商品・サービスの供給に取り組み、正確な原価構成の把握と、それをエビデンスとした適切な価格交渉を通じて価格転嫁を推進することが期待されます。

経営環境の可視化と外部連携

適切な価格転嫁や収益性向上のためには、経営状態を可視化できる管理体制の構築が不可欠です。

  • 原価構成・利益の把握
    「製品・商品・サービスの原価構成・利益の把握」に取り組んでいる事業者は、そうでない事業者に比べて価格転嫁が進んでいることが分かります。

  • キャッシュフロー管理
    「業績やキャッシュフローを適時・適切に確認できる管理」に取り組んでいる事業者は、経常利益の変化率が高い水準にあり、適切なコストマネジメントが収益性向上につながっている可能性が示唆されます。

さらに、若い経営者ほど、社外(金融機関、支援機関、コンサルタント等)への経営課題の共有・相談に意欲的に取り組んでおり、社外への相談は幅広い経営課題の解決や収益性向上に寄与する可能性があります。

2. 構造的な課題:人手不足の克服と人材戦略

中小企業・小規模事業者が現在最も重視する経営課題は「人材確保」であり、この課題は企業規模にかかわらず共通しています。特に「中規模企業」では不足感が強く、職種別では製造作業者、建設作業者、サービス職業従業者といった現場作業に従事する「現業職」が特に不足している状況です。

賃金以外の魅力:組織の透明性と働き方

人材不足を解消するためには、採用した人材の定着率を高めることが必要です。賃上げは人材確保に好影響を与える可能性が確認されていますが、賃上げ余力が乏しい中小企業にとっては、賃金以外で働き手に選ばれる事業者になることが求められます。その鍵となるのが、組織運営の「透明性」です。

  • 経営理念・ビジョンの共有
    「従業員への経営理念・ビジョンの共有」や「業績・財務内容・議事録など経営情報の共有」に取り組んでいる事業者は、定着率が「7割以上」である割合が比較的高いことが分かっています。

  • 業績への貢献
    経営理念や経営情報の共有は、従業員の主体性を高め、改善・効率化の行動を促すことで、売上高や付加価値額の向上にもつながる可能性が示唆されています。

  • 社内コミュニケーション
    社内コミュニケーションが「円滑である」事業者は、定着率「7割以上」の割合が高く、円滑なコミュニケーションは「業務上の迅速な情報共有」や「従業員のモチベーション向上」といった効果を生み出しています。

■従業員の定着状況(組織運営の透明化への取組状況別)

従業員の定着状況

DX・設備投資による効率化と人材確保

人手不足に対応する方法の一つとして、デジタル投資による効率化や、設備投資による自動化・機械化を通した生産性向上が考えられます。
デジタル化の取組は着実に進展しており、2024年には「段階1」(紙や口頭による業務が中心)の事業者の割合が減少しています。しかし、DXの取組を進める上での問題点として、多くの事業者が「費用の負担が大きい」又は「DXを推進する人材が足りない」ことを挙げています。

中小企業庁では、IT導入補助金や省力化投資補助金などの支援策を通じて、前向きなデジタル投資や設備投資を後押ししています。例えば、積極的な省力化投資で作業工程を自動化し、業務効率化と賃上げを実現した事例や、AIを活用して伝統工芸の技術継承と人材育成を両立した事例があります。

3. 経営者の成長意欲とリスキリングの重要性

中小企業の成長・発展において、経営者のスキルや成長意欲は非常に大きな影響を及ぼします。

経営者の「学び直し」(リスキリング)と業績向上

経営環境の変化に対応するため、新たな知識やスキルを学ぶ「経営者のリスキリング」は重要です。約3割の経営者がリスキリングに取り組んでおり、特に若い経営者ほど意欲的です。
リスキリングに取り組んでいる事業者は、取り組んでいない事業者に比べて、売上高の変化率、付加価値額の変化率がともに高い水準で増加していることが示されています。獲得したいスキルとしては、「経営戦略」や「管理者の職務とリーダーシップ」といった経営者としての能力を高めるものが上位を占めています。
リスキリングに取り組む経営者の「学ぶ姿勢」は組織文化に昇華し、組織全体として人材育成や学びの風土醸成につながっている可能性も確認されています。

経営者ネットワークの活用

経営者の成長意欲を高める上で、他社の経営者や経営幹部との交流を目的とした社外のコミュニティ(経営者ネットワーク)の活用も有効です。

  • 参加状況
    全体で約7割の事業者が参加しており、「中規模企業」は「小規模事業者」に比べて参加割合が高いです。

  • 効果
    特に「異業種・広域ネットワーク」に参加している事業者では、「成長に向けた新たな発想を得た」「成長意欲が高まった」といった成長に関する効果を感じている割合が高いです。

  • 業績への影響
    「異業種・広域ネットワーク」に参加している事業者は、他のネットワークと比べて売上高の変化率が高い水準にあり、この成長意欲の高まりが業績にも好影響を及ぼしている可能性が示唆されます。

4. 成長の壁を打破する「スケールアップ戦略」

中小企業が持続的な賃上げや投資を行うためには、売上高100億円規模の「100億企業」といった一定企業規模への成長(スケールアップ)が欠かせません。

スケール別の「成長の壁」と組織・人材戦略

2013年度から2022年度の10年間で、約3社に1社がスケールアップを実現しています。スケールアップを達成した企業は、雇用を拡大し、従業者一人当たり売上高を向上させ、利益率を高めてきた傾向が見られます。
売上高の規模ごとに、乗り越えるべき「成長の壁」と、重要と考える組織・人材戦略が異なります。

  • 売上高10億円未満の事業者
    最も重視する組織・人材戦略は「経営者の兼務解消・権限委譲」と「その他専門的な人材の確保・育成」です。これは、売上高10億円の壁が、経営者一人で経営することの限界である可能性を示唆しています。この規模の事業者は、支援機関を活用しながら、資金繰りの安定化や経営計画の策定など、経営基盤を整えることが急務です。

  • 売上高10億円以上の事業者
    スケールが大きくなるほど「経営人材の確保・育成」と「DX人材の確保・育成」が求められます。100億企業を目指すには、事業拡大に伴うDXによる業務変革と、経営者と同じ目線で判断できる経営人材の確保が不可欠です。

■経営人材の有無及び人数(スケール別)

経営人材の有無及び人数

また、経営計画を策定している事業者は、策定していない事業者に比べて、いずれのスケールにおいてもスケールアップを実現した割合が高いことから、経営計画の策定も効果的です。

積極的な投資行動:設備投資、M&A、海外展開

企業規模を拡大するに当たっては、「設備・拠点の新設」、「M&A(水平・垂直)」、「M&A(多角化)」、「輸出の開始・拡大」といった投資戦略の重要性が増しています。

M&Aの活用

M&A(合併・買収)件数は近年増加傾向にあり、中小企業においても事業承継・引継ぎ支援センターの成約件数が増加しています。スケールアップ実現企業は、M&A非実施企業よりも売上高および経常利益を伸ばしている傾向が見られます。また、「市場シェアの拡大」、「技術・ノウハウの獲得」に加え、特に「人材の獲得」を目的としている割合が高く、人材不足というリソースの制約をM&Aで解消し、成長を果たしている様子がうかがえます。

設備投資とDX

設備投資の実施は、スケールアップに向けて有効な投資行動の一つです。特に、生産能力・販売能力の強化を目的とした設備投資が、スケールアップの一助となっていることがうかがえます。
DXに関しては、売上高50億円以上の事業者では5割超が「段階3」以上(デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態)となっており、スケールアップに伴いDXによる業務効率化が必要となります。

激変する時代を乗り越える!2025年版中小企業白書から読み取る成長戦略:まとめ

中小企業が激変する環境を乗り越え、成長を遂げるためには、コストカットの限界を認識し、付加価値を高める経営への転換が急務です。

  1. 戦略策定:自社の強みを活かした差別化と、原価をエビデンスとした適切な価格設定・価格転嫁を徹底する。

  2. 組織運営:経営理念・情報を従業員と共有し、組織の透明性を高めることで、人材の定着と業績向上につなげる。

  3. 自己成長:リスキリングや異業種・広域の経営者ネットワークを積極的に活用し、自らの成長意欲とスキルを向上させる。

  4. 成長戦略:売上規模に応じた「成長の壁」を把握し(例:10億円未満の壁の克服には経営人材の確保と権限委譲)、DX、設備投資、M&Aといった手段を戦略的に活用して、賃上げと投資の好循環を実現する。

「金利のある世界」の到来や人手不足は厳しい状況ですが、適切な行動変化と積極的な投資により、中小企業の最終的な経常利益が押し上げられる可能性が示唆されています。外部環境の変化を好機と捉え、支援機関(商工会、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター等)のサポートも活用しながら、スケールアップへの挑戦を継続していくことが期待されています。

出典:中小企業庁 激変する時代を乗り越える!2025年版中小企業白書に学ぶ経営力向上の鍵と成長戦略(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf)を加工して作成