教員の働き方改革が進まない理由

教員の働き方改革は、これまでの働き方を見直し、自らの授業を磨くとともにその人間性や創造性を高め、子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようにすることを目的とするものです。
しかし教員の魅力を広く知ってもらおうと文部科学省が立ち上げたSNS「教師のバトン」では、長時間労働の過酷さを訴える教員のツイートが後を絶たず炎上、大きな話題となりました。
この記事では、文部科学省「教員勤務実態調査」の結果を紹介し、教員の働き方改革が進まない原因を分析します。
Contents
【教員の働き方改革】教員勤務実態調査
2016年の教員勤務実態調査から、いくつかの調査結果を紹介します。
教員の勤務時間
教諭の平均的な勤務の状況は以下となっていました。

定められている勤務開始・終了時刻を、かなりオーバーしていたことがわかります。この頃、第3次安倍第2次改造内閣の元、働き方改革実現会議が設置され、教員の働き方改革の必要性も認識されはじめました。
教員の勤務時間管理
教員の勤務時間はどのように管理されていたのでしょうか。

出退勤時刻の管理について、タイムカードや校務支援システムを活用する事例がありながらも、報告や点呼、目視などで管理職が確認する方法が最も多いということがわかりました。勤務時間縮減に向けた取組は、会議の精選・短縮が最も多くなっています。
【教員の働き方改革】労働時間の適正な把握のためのガイドライン
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は労働時間を適切に管理する責務を有しています。これは公立学校も適用範囲に含まれます。
しかし、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられることから、教員の働き方改革の一環として、平成29年2月10日付けで文部科学省から各都道府県・指定都市教育委員会あてにガイドラインが周知されました。
| 始業・終業時刻の確認及び記録 | 使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。 |
| 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法 | 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。 1.使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。 2.タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。 |
| 賃金台帳の適正な調製 | 使用者は、労働基準法第108条及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。 賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法120条に基づき、30万円以下の罰金に処されること。 |
| 労働時間の記録に関する書類の保存 | 使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならないこと。 |
【教員の働き方改革】教育委員会における学校の業務改善のための取組状況調査
文部科学省では、教員の働き方改革を進めるため、教育委員会における学校の業務改善のための取組状況調査(2017年度)の結果をとりまとめ、各教育委員会に対して、以下の点に留意しながら学校現場の業務改善に係る取組を徹底するよう依頼しています。
1.所管する学校に対する業務改善方針の策定等について
調査結果
「所管する学校に対する業務改善方針・計画等を策定していない」と回答した教育委員会
都道府県で7(14.9%)、指定都市(以下「政令市」という。)で9(45.0%)、市区町村で1,587(92.4%)
いまだ取組が十分に行われていない教育委員会においては、その徹底を図るよう依頼。
都道府県教育委員会には、域内の市区町村教育委員会における業務改善担当部署との連携体制を構築したうえで、取組に対する支援及びフォローアップを行う。
2.勤務時間の適正把握について
調査結果
教職員の勤務時間管理の把握方法について,「タイムカードの導入等で管理している」と回答した教育委員会
都道府県で6(12.8%)、政令市で8(40.0%)、市区町村で139(8.1%)
勤務時間管理については労働法制上求められる責務であり、業務改善を進めていく基礎として服務監督権者である教育委員会が教職員の勤務時間を適切に把握することは必要不可欠。各学校の管理職及びその他の教職員がそれぞれ勤務時間について改めて意識をもって勤務するような取組を実施する。
3.労働安全衛生管理体制の整備について
引き続き、各学校における労働安全衛生管理体制の整備に万全を期す。
4.部活動の適切な運営等について
調査結果
運動部活動について「休養日等の基準を設定している」と回答した教育委員会
都道府県で41(87.2%),政令市で14(70.0%),市区町村で737(42.9%)
引き続き、適切な対応に努めていただくよう依頼。また、部活動指導員当による引率等について、スポーツ庁より関係する各都道府県連盟等に対しても、同様の協力が得られるよう、十分な周知を依頼しており、各教育委員会においても、関係する各都道府県連盟等と協議を進める。
この頃は、まだ勤務時間管理も正しく行われていないケースが多く、教員の厳しい労働状況が見て取れます。
文部科学省からは、「勤務時間管理については労働法制上求められる責務であり、業務改善を進めていく基礎として教育委員会が教職員の勤務時間を適切に把握することは必要不可欠」という、強い表現で取組を徹底するよう依頼しています。さらに、校長及び教育委員会に対し、緊急提言を行いました。
【教員の働き方改革】学校における働き方改革に係る緊急提言
校長及び教育委員会は学校において「勤務時間」を意識した働き方を進めること
教員が授業や授業準備等に集中し,教育の質を高められる環境を構築することは,21世紀を生き抜く子供たちに必要な資質・能力を高める教育を一層行っていくために必要不可欠である。
その際、学校運営の持続可能性を高める観点からは,教員が疲労や心理的負担を過度に蓄積して心身の健康を損なうことのないよう,執務環境を整備し,無制限無定量の勤務を是とするのではなく、限られた時間の中で最大限の効果を上げられるような働き方を進める必要がある。
このため特に校長や服務監督権者である教育委員会は、教職員の意識改革を図るためにも以下の取組を一層進めるとともに、給与負担者である教育委員会並びに国は積極的に指導助言及び支援すべきである。
業務改善を進めていく基礎として、適切な手段により管理職も含めた全ての教職員の勤務時間を把握すること。
勤務時間管理は、労働法制上,校長や服務監督権者である教育委員会に求められている責務である。
出退勤時刻の管理についてタイムカードや校務支援システム等を導入する学校が増加しているものの、文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」によれば、教員の毎日の退勤時刻の管理について「タイムカードなどで退勤の時刻を記録している」と回答した学校は
小学校で10.3%,中学校で13.3%、「校務支援システムなどICTを活用して退勤の時刻を記録している」と回答した学校は小学校で16.6%、中学校で13.3%にとどまっており限定的。
こうした実態も踏まえ、服務監督権者である教育委員会は,自己申告方式ではなく、ICTやタイムカードなど勤務時間を客観的に把握し、集計するシステムが直ちに構築されるよう努めること。
この提言で、教員の勤務時間を把握することの大切さを強調していることがわかります。
【教員の働き方改革】業務改善の取組結果は?
2020年10月時点、勤務時間の客観的な把握の徹底労安衛法により義務付けられている、ICカードやタイムカード等の記録による客観的な方法での勤務実態の把握の徹底するための環境整備の推進における実施割合は、政令市では、 85.0%、市区町村では、 71.3% でした。
出典:公立学校における働き方改革の推進資料 https://www.mext.go.jp/content/20210901-mxt_zaimu01-100002242_4.pdf)
2017年の調査で、「タイムカードの導入等で管理している」と回答した教育委員会が、政令市で40.0%、市区町村で8.1%だった頃に比べると、大きく改善しています。
しかし、このタイムカード等の記録が、長時間労働是正に対し、あまり効果を発揮しない理由があるようです。
【教員の働き方改革】公立学校教育職員の給与等に関する特別措置法
公立学校の教員は特別な法律「給特法」によって、残業代を支給しないことになっており、その分、給与月額の4%が別途支給されています。
給特法とは、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の略称。教員の勤務態様の特殊性をふまえて、公立学校の教員について、時間外勤務手当や休日勤務手当を支給しない代わりに、給料月額の4パーセントに相当する教職調整額を支給することを定めた法律。
いくらタイムカードで残業時間を記録しても残業代が出ない、ガイドラインの周知や提言だけでは、状況が改善されないのもうなずけます。
「教員の働き方改革」を実現するため、給特法は2019年に改正され1ヶ月45時間・年間360時間以内とする残業時間の「上限」は設けられたものの、抜本的な解決にはなっていません。
また給特法改正では変形労働時間制の適用を「可能」としていますが、条件として、残業時間の上限が決められているため、多くの教員が利用できない制度となっているようです。
教員の働き方改革が進まない理由:まとめ
文部科学省では教員の働き方改革を進めるため、学校現場における業務改善に係る取組について、
- 業務改善を進めていく基礎として,適切な手段により管理職も含めた全ての教職員の勤務時間を把握すること。
- 勤務時間管理は、労働法制上、校長や服務監督権者である教育委員会に求められている責務である。
と提言しています。
勤務時間管理については、勤怠管理システムを利用することで複雑な労働時間管理も正確に行うことが可能です。しかしSNS等に見る教員たちの意見や、新聞社などの教員に向けた独自アンケート調査の結果などによると、勤務時間管理の以前に「給特法」を始め抜本的な解決策が求められているようです。
教員の働き方改革は、国・教育委員会・学校それぞれが取組を着実に推進し、教員が教員でなければできないことに全力投球できるよう、法律や環境整備が求められます。
文部科学省:「学校における働き方改革」の推進状況について(https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000402970.pdf)
文部科学省:勤務時間管理の現状と在り方について(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/__icsFiles/afieldfile/2017/11/10/1398078_4.pdf)
を加工して作成
