「教育訓練給付制度」在職中のスキルアップ|戦略的活用で人的資本価値の最大化へ

教育訓練給付制度は、従業員一人ひとりの主体的な学びを後押ししつつ、企業の人的資本価値の向上を実現する重要な公的支援策です。2024年10月の制度改正により、受講後の賃金上昇など「目に見える成果」を重視した給付が拡充され、従来の費用補助を超えたインセンティブ設計が導入されました。在職中のスキルアップが可能なこの制度は、企業にとってただの福利厚生ではなく、「戦略的投資」として人材育成に活用できる仕組みへと進化しています。
この記事では、教育訓練給付金の最新動向と、企業の視点で考える活用法についてわかりやすく解説します。
Contents
在職中に使える教育訓練給付制度
教育訓練給付制度は、雇用保険制度の一部として、働く人々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的としています。厚生労働大臣が指定する教育訓練を従業員が自己負担で受講・修了した際に、その費用の一部が国から直接従業員へ支給される仕組みです。
まず理解すべき点は、この制度が従業員個人のための給付金であるということ。教育訓練給付制度は、在職中でも利用できますが、申請手続きは従業員本人とハローワーク、そして教育訓練施設との間で行われ、企業の証明書発行や手続きへの関与は不要であり、企業側へ利用の通知がなされることもありません。この従業員の自主性を尊重した設計は、本制度の根幹をなす特徴です。
教育訓練給付制度 3つの訓練
教育訓練給付制度は、訓練の専門性や目的に応じて3つの異なる種類に分類されています。この階層構造は、多様なキャリアニーズに対応するための国の戦略的な設計を反映しています。幅広い層の基礎能力向上を促す「一般」、労働市場の需要に即応する「特定一般」、そして国の重要分野における高度専門人材を育成する「専門実践」という区分は、それぞれに異なる政策的意図を持っています。
人事担当者はこの構造を理解することで、従業員のキャリアプランと国の支援策を効果的に結びつける助言が可能となります。
対象の教育訓練は、約17,000講座。具体的な講座は、教育訓練給付制度検索システムで検索できます。オンラインで受講できる講座や、夜間・土日に受講できる講座もあり、働きながら受講することができます。
教育訓練給付制度検索システム(https://www.kyufu.mhlw.go.jp/kensaku/)
一般教育訓練指定講座
雇用の安定や就職の促進に資する、幅広い分野の教育訓練が対象となる最も基本的な給付です。
一般教育訓練指定講座は「資格取得」や「実務で使える技能・知識」に関する幅広い分野が認められており、公的な職業資格のみならず、広く社会で活用できる民間資格やスキルアップ講座も対象となるのが特徴です。
受講費用の20%(上限10万円)が受講者に支給されます。
公的職業資格または民間職業資格の取得を目標とする講座
(簿記検定、TOEIC、宅地建物取引士(宅建)、ファイナンシャルプランナー、医療事務など)仕事に必要な知識・能力の取得を目的とした講座
(パソコンスキル、事務処理スキル、ビジネスマナー、語学、各種通信教育等)キャリアアップを目指すための専門的な知識や技能を身につける講座
(履修証明プログラム、社会人向け短期講座など)
特定一般教育訓練
労働者の早期のキャリア形成に特に資するとされる教育訓練を対象とします。これらは比較的短期間で、労働市場での需要が高い資格取得に繋がる講座が多く含まれます。
最大で受講費用の50%(上限25万円)が受講者に支給されます。
特定一般教育訓練指定講座
業務独占資格、名称独占資格若しくは必置資格の取得を目標とする養成課程、又はこれらの資格の取得を目標とする課程
(介護支援専門員実務研修、大型自動車第一種免許、特定行為研修など)一定レベル以上の情報通信技術に関する資格取得を目標とする課程
(基本情報技術者試験など)短時間の職業実践力育成プログラム及びキャリア形成促進プログラム
(特別の課程(保健)、特別の課程(社会科学・社会)など)
専門実践教育訓練
労働者の中長期的なキャリア形成を支援するための、より専門的・実践的な教育訓練が対象です。
教育訓練経費の50%(年間上限40万円)訓練受講中6か月ごとに支給されます。
資格取得等をし、かつ訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は、教育訓練経費の70%(既に支給を受けた50%の給付の年間合計額と教育訓練経費の70%に相当する額(年間上限56万円)の差額)が支給されます。
上記の支給の要件を満たしたうえで、訓練修了後の賃金が受講開始前と比較して5%以上上昇した場合は、教育訓練経費の80%(既に支給を受けた50%と70%の給付の年間合計額と教育訓練経費の80%に相当する額(年間上限64万円)の差額)が支給されます。
その他、失業状態にある方が初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する場合、受講開始時に45歳未満であるなど一定の要件を満たせば、別途、教育訓練支援給付金が支給されます。
専門実践教育訓練指定講座
業務独占資格又は名称独占資格の取得を目標とする養成課程
(介護福祉士、看護師、美容師、社会福祉士、保育士、歯科衛生士など)専門学校の職業実践専門課程及びキャリア形成促進プログラム
(商業実務、衛生関係、工業関係など)専門職大学院の課程及び外国の大学院の学位の取得のための課程
(ビジネス・MOT、法科大学院、教職大学院など)大学等の職業実践力育成プログラム
(特別の課程(保健)、正規課程(保健)など)第四次産業革命スキル習得講座等
(AI、IoT、データサイエンス、クラウド、セキュリティ、ネットワーク、自動運転など)専門職大学等の課程
教育訓練給付制度 企業にとってのメリット・デメリット
企業にとって教育訓練給付制度の最大のメリットは、人材育成コストを抑えながら従業員のスキルアップを促進し、生産性向上や離職率低下など組織力の強化が期待できる点です。給付金制度を活用することで、本来は企業が負担する必要がある研修や資格取得の費用が軽減され、「安価で質の高い人材育成」が実現しやすくなります。
スキルアップした社員は業務効率や生産性の向上に貢献しやすくなり、キャリア開発支援による従業員満足度の向上や離職防止にもつながります。この仕組みにより、企業は中長期的な競争力強化やコスト削減、組織安定を図ることを期待できます。
一方、教育訓練給付制度は企業にとってデメリットもあります。
在職中に教育訓練給付制度を利用して、専門性の高い資格や市場価値のあるスキルを身につければ、より好条件の企業からのオファーを受けやすくなるため、人材流出リスクは上昇します。このため、企業側が教育訓練給付金の利用を促進する場合、人材定着のための制度設計や、キャリアパス整備、従業員への十分なインセンティブ設計(昇進、報酬、職場満足度向上)といったリスクヘッジが重要となります。
人材流出リスクを完全に避けることはできませんが、スキルアップによって業務効率や企業全体の競争力が高まるメリットとトレードオフで考えるべきでしょう。
「人材開発支援助成金」との比較と使い分け
企業にとって教育訓練給付金の受給をサポートすることは、単なる福利厚生の案内にとどまりません。それは、学習意欲の高い従業員を経済的に支援し、スキルアップを奨励することで、組織全体の競争力を高める戦略的な人事施策と言えます。
例えば、社内の階層別研修やDX推進研修を「人材開発支援助成金」を活用して企画・実施する一方で、従業員が個別に希望する外部の専門資格取得については在職中に「教育訓練給付金」の情報を積極的に提供します。「人材開発支援助成金」が企業の戦略的な「プッシュ型」の人材育成を後押しするのに対し「教育訓練給付金」は従業員の自発的な「プル型」のスキルアップを促します。
これにより、企業と従業員の双方にとって、最小限のコストで最大限の人材開発効果を生み出すことが可能になります。
参照記事:【令和7年版コース一覧】人材開発支援助成金|将来にわたって活躍できる人材育成を
教育訓練給付金の支給申請について
教育訓練給付金の「講座指定申請」の募集期間(施設や教育機関が給付金の対象講座として申請する期間)は、年に2回設定されています。
具体的な日程は、毎年厚生労働省が告知しますが、「4月上旬~5月上旬」「10月上旬~11月上旬」が基本です。
4月1日からの指定分
前年の10月上旬~11月上旬に申請受付
10月1日からの指定分
その年の4月上旬~5月上旬に申請受付
詳細は、該当年度の厚生労働省公式サイトで最新情報を確認してください。
教育訓練給付制度(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html)
「教育訓練給付制度」在職中のスキルアップ|戦略的活用で人的資本価値の最大化へ
教育訓練給付制度は、従業員の主体的な学びを支える、非常に有用な公的支援策と言えるでしょう。在職中に教育訓練給付制度を利用することで、従業員のスキルアップに伴う人材流出を懸念されるかもしれませんが、それは個人の価値が高まっている証とも考えられます。むしろ本当のリスクは、学びの機会が失われ、組織全体が変化に対応できなくなることなのかもしれません。
この制度を、個人の成長意欲を企業の競争力へと転換させる絶好の機会と捉え、魅力的なキャリアパスや働きがいのある環境整備とセットで活用することが不可欠です。従業員と企業が共に成長する好循環を創り出し、人的資本の価値を最大化しましょう。
出典:厚生労働省
教育訓練給付制度(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html)
教育訓練給付金のご案内(https://www.mhlw.go.jp/content/001155029.pdf)
専門実践教育訓練指定講座(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_50917.html)
特定一般教育訓練指定講座(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_50916.html)
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