面接指導で長時間労働による過労死を防ぐ!

面接指導

長時間労働は疲労を蓄積させ、脳・心臓疾患や精神障害との関連が認められているため※、労働安全衛生法第66条の8により医師による該当者への面接指導を行うことが義務付けられています。

働き方改革以前は、長時間労働の基準として月100時間超が設定されていましたが、2019年の法改正により、これが月80時間超に引き下げられました。脳や心臓疾患による過労死は減少していますが、精神障害による過労死は増加傾向にあり、面接指導の役割がますます重要となっています。
この記事では、長時間労働者への医師による面接指導について解説します。

※出典:脳・心臓疾患の労災認定(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/2207252-1.pdf)

医師による面接指導とは

長時間の労働により疲労が蓄積し健康障害発症のリスクが高まった労働者について、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて医師が本人に対する指導を行うとともに、その結果を踏まえた措置を行うものです。

労働安全衛生法では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の発症が長時間労働との関連性が強いとする医学的知見を踏まえ、脳・心臓疾患の発症を予防するため、長時間にわたる労働により疲労の蓄積した労働者に対し、事業者は医師による面接指導を行わなければならないとされています。

面接指導の実施者は、医師や産業医などですが、労務担当者は面接指導の準備や実施内容について詳しく知っておく必要があります。面接指導制度の実効性を高め、労働者の健康を守るためには、労務担当者の積極的な関与と主導的な役割が欠かせません。

医師による面接指導の対象となる労働者と要件

scroll
労働者
(裁量労働制、
管理監督者
含む)

①義務

月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接指導を申し出た者

安衛法第66条の8/安衛則第52条の2

②努力義務

事業者が自主的に定めた基準に該当する者

安衛法第66条の9/安衛則第52条の8

研究開発
業務従事者

①義務
(罰則付き)

月100時間超の時間外・休日労働を行った者

安衛法第66条の8の2/安衛則第52条の7の2

②義務

月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接指導を申し出た者

安衛法第66条の8/安衛則第52条の2

③努力義務

事業者が自主的に定めた基準に該当する者

安衛法第66条の9/安衛則第52条の8

高度
プロフェッショナル
制度適用者

①義務
(罰則付き)

1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間について、月100時間超行った者

安衛法第66条の8の4/安衛則第52条の7の4

②努力義務

①の対象者以外で面接を申し出た者

安衛法第66条の9/安衛則第52条の8

高度プロフェッショナル制度、研究開発業務、一般労働者、管理監督者、裁量労働制それぞれ面接指導の要件が異なります。

高度プロフェッショナル制度

※労働者の健康管理に着目した労働時間の状況

面接指導の実施前の準備

面接指導は、労働者の健康状態を把握し、適切な指導やアドバイスを行うために、実施前の準備が重要です。

面接指導の実施者

医師

産業医が選任されている事業場では、産業医が実施することが望ましいとされます。産業医がいない場合は、地域産業保健センターの登録医や健康診断機関(労働衛生機関)の医師、または労働者の健康管理に必要な医学的知識を持つ医師が実施します。

産業看護職

産業看護職がいる事業場では、補助的な面談を依頼し、連携を図ることができます。

面接指導の実施場所

対面での実施

プライバシーが確保できる場所(相談室、面談室、会議室など)で行います。

情報通信機器を用いた面接指導

面接指導は原則として対面で実施する必要があります。ただし、産業医が表情やしぐさを確認できるなど、一定の条件を満たせば、情報通信機器を使用することも可能です。

記録方法

紙媒体又は電子カルテに記録し、5年間保管されます。面接結果は最終的に報告書へまとめ、事業者へ提出されます。

労働時間以外の健康障害リスク評価

面接指導の実施者へ、面接指導対象者やその上司・人事担当者から以下の情報を提供することが推奨されています。

■ 業務の過重性

  • 出勤・退勤時刻、通勤方法・時間

  • 仕事による負担の有無、裁量度、職場の支援状況

  • 疲労蓄積度自己診断チェックリストなどの自記式調査

  • 上司からの意見(勤務状況、長時間労働の理由、見通し、今後の対応策)

  • 人事からの勤怠情報

■ 心身の状態及び生活の状況

  • 健康診断結果

  • 睡眠状況

  • 仕事以外の一般生活におけるストレス・疲労の有無

  • 疲労蓄積度自己診断チェックリストなどの自記式調査

  • ストレスチェック結果

  • うつ病等のスクリーニング調査

面接指導の実施

業務の過重性と心身及び生活の状況の評価

上記を踏まえて、業務の過重性について詳細に確認します。

■ 業務の過重性

  • 業務内容

  • 対象者の考える長時間労働発生の理由や今後の見通し

  • 仕事の負担度(質的負担・量的負担)

  • 仕事の裁量度

  • 職場の支援度

  • その他業務遂行に支障を来たし得る仕事の要因(人間関係等)

■ 心身の状態及び生活の状況

上記を踏まえて、疲労の蓄積状況や心身の状況について詳細に確認します。

  • 既往歴、現病歴の治療状況

  • 他覚所見(血圧、体重)

  • 自覚症状

  • 構造化面接(事前に設定された質問項目と評価基準に基づいて行われる面接手法)

  • 食欲

  • 睡眠に関する詳細な問診

  • 嗜好(喫煙、飲酒)

  • 余暇の過ごし方

  • 同居人等(独身/結婚/交友関係等)

  • 仕事以外の一般生活におけるストレスの有無(親の介護、育児、自身のスキルアップ等)※

※仕事と生活とは密接に関連していますが、一般生活におけるストレス・疲労要因に関して産業医が介入することが困難なケースが存在することも念頭に置く必要があります。相談内容によっては対象者が過度な期待を持たないよう、面接指導で介入できる範囲について伝えておくことが望ましいとされます。

科学的根拠に基づくリスク評価

医師は面接で得た情報をもとに、科学的根拠に基づいたリスク評価を行うことがあります。
例えば

  • 血圧に基づいた脳心血管病のリスク評価

  • 冠動脈疾患の発症予測

  • 脳卒中発症確率の評価

  • うつ病の簡便な構造化面接法

これらの評価は医師の専門的判断によるものですが、長時間労働が様々な健康リスクを高める可能性があることを認識することが重要です。
面接指導は労働者一人ひとりの状況を把握し、適切な対策を講じるための重要な機会です。労務担当者の理解と協力が、面接指導の効果を高め、労働者の健康を守ることにつながります。

面接指導

面接指導の事後措置

面接指導の事後措置の流れ

1.医師からの意見聴取

事業者が労働者に就業に関する適切な事後措置を実施するため、医師は労働者の健康を保持するための必要な措置について事業者へ意見を述べます。その際、医師は職場や人事からの情報を参考にし、必要に応じて職場上司、人事等と協議した上で具体的事後措置内容を事業者へ報告します。

2.事後措置

  • 事業者は、医師の意見を勘案して適切な事後措置を決定し、実施します。

  • 事業者は実施内容について記録し5年間保存します。

  • 労働者への事後措置を講じた後、健康状態の改善が見られない場合には、再度、医師による面接指導を実施し、適切な措置を行います。

  • 事後措置を効果的に実施するために労働者の主治医と連携することが有効であると考えられる場合、産業医は主治医へも事後措置の内容を伝えることが望ましいとされます。

  • 産業医が事業場に選任されていない場合は、他の医療職か衛生推進者が主治医へ事後措置の内容を伝えます。

3.事後措置に関する情報提供

産業医が選任されている事業場では、産業医へ事業者が最終的に決定した事後措置を報告します。措置を実施しなかった場合はその理由を報告します。これらは事業場の任意の様式に記載し、事業者の個人情報管理責任者が5年間保管します。

産業医が選任されていない事業場では、医師による事後措置に関する意見への対応を事業者側が書類に記載します。書類の保管は衛生管理者又は衛生推進者が個人情報管理責任者となり5年間保管します。

面接指導の好事例

面接指導により、実際に長時間労働の是正や労働環境の改善が行われた事例は多くあります。
以下の事例は、「面接指導を効果的に実施するためのマニュアル」を作成した研究班が、日本産業衛生学会専門医や指導医等が専属産業医として選任されている事業場を対象に実施したインタビュー調査で得られたものです。

社員の疲労状況を報告し、慢性的な人手不足が解消

自動車製造業の職場。毎年、新年度に向けて新車を購入する人が多い(新入社員、新入生など)ため、1〜3月の製造量が増加する。特に塗装課の時間外労働が増加する傾向があり、慢性的に人員が足りず社員の多くが過重労働となっており、面接指導で疲労が蓄積している社員を確認できていた。
人事および上司に対し産業医が社員の疲労蓄積の実態を伝え、結果的に人員増員へつながった。
【原因】繁忙期、人員不足
【対策・具体的対策】産業医による実態報告、増員

サービス残業の実態を報告し労務管理を改善

融資業務を担当する職場。長時間労働となった社員が医師の面接指導対象者となったため、産業医が面接指導を実施した。面接指導において、サービス残業が発生しているなどの不適切な時間管理が疑われる状況が判明した。
面接指導対象者の同意を得た後、当該職場の所属長や人事へ報告し、安全衛生委員会でも報告した。この事案がきっかけとなり、社内における時間管理の厳格化が実施されることとなった。
【原因】不適切な労務管理
【対策・具体的対策】労務管理の見直し

面接指導でうつ病が示唆された労働者の業務負荷を軽減

29歳女性のシステムエンジニアが、月74時間の時間外労働と月2日の休日出勤を行っていた。威圧的な上司、業務分担の難しさ、相談への躊躇、長い通勤時間などが要因となり、うつ病の可能性が示唆された。
産業医の意見を受け、時間外・休日労働の禁止と業務軽減が実施され、精神科での治療が開始された。病状は徐々に改善したが、適切な睡眠時間確保のため、1日1時間以上の時間外勤務制限が継続された。
【原因】専門性が高い業務、長距離通勤、人間関係
【対策・具体的対策】就業制限(時間外・休日労働禁止)、業務負荷の軽減

現場管理者に業務が集中している状況に対し業務配分を見直し

52歳男性、製造現場責任者。業務が集中し、長時間労働となったため面接指導の対象となった。現場責任者は、現場監督・指示出しに加え、書類仕事もあり、定時後に書類仕事をしていたことが面接で把握された。
面接指導後、職制と話し、契約社員を追加で採用することになった。書類仕事で他の社員にまわせるものはまわし、業務整理を行った。結果的に定常的な時間外勤務は減少した。
【原因】管理職
【対策・具体的対策】増員、業務配分の見直し

面接指導で長時間労働による過労死を防ぐ!:まとめ

面接指導は、単に法的な義務を果たすだけでなく、従業員の健康を守り、ひいては企業の持続的な成長にも不可欠な取り組みです。
従業員の健康は、企業の財産といえます。面接指導を通して、従業員一人ひとりの健康状態を把握し、適切な事後措置を行うことは、休職や離職を防ぎ、企業全体の活力を高めることに繋がります。

厚生労働省:医師による長時間労働面接指導実施マニュアル
(https://www.mhlw.go.jp/content/000843223.pdf)を加工して作成