労働紛争の相談数が15年連続で100万件超えに

労働紛争とは、労働者個人と使用者(事業主)との間に労働契約の存否や労働条件などに関する事項について発生した紛争を指します。労働紛争が長期化すると企業は大きなダメージを受けるため、予防や早期の解決が重要です。
この記事では、労働紛争の現状と事例について、解説します。
Contents
労働紛争の相談件数
労働局に寄せられた労働紛争に関する令和4年度の総合労働相談件数は124万8,368件で、15年連続で100万件を超え、高止まりとなっています。

労働紛争の原因
上記124万8,368件のうち、労働基準法等の違反の疑いがあるものは18万8,515件、民事上の個別労働紛争相談が27万2,185件。内訳は以下となっています。

民事上の個別労働紛争では、いじめ・嫌がらせが多く、パワーハラスメントに該当する場合があります。
参照:【パワーハラスメント対策が必須に!】防止法が中小企業にも適用
労働紛争の解決
個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)
労働紛争の解決のため、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づく3つの紛争解決援助制度があり、労働者・事業主どちらからでも無料で利用が可能となっています。
なお、労働者がこれらの制度を利用したことを理由として、事業主が労働者に対して不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。
個別労働紛争解決制度 1. 労働相談
都道府県労働局では総合労働相談コーナーにおいて、労働問題に関する情報提供・個別相談のワンストップサービスを行っており、関連する法令・裁判例などの情報提供、助言・指導制度及びあっせん制度についての説明を行います。また、必要に応じて、下記の他機関と連携も行っています。
連携
都道府県(労政主管事務所、労働委員会)
裁判所
法テラス(日本司法支援センター)
労使団体における相談窓口
など
個別労働紛争解決制度 2. 助言・指導
対象となる範囲は、労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争です。
解雇、雇止め、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争
いじめ・嫌がらせなどの職場環境に関する紛争
退職に伴う研修費用の返還、営業車など会社所有物の破損についての損害賠償をめぐる紛争
募集・採用に関する紛争(※助言・指導の対象にはなりますが、あっせんの対象にはなりません。)
など
個別労働紛争解決制度 3. あっせん
紛争調整委員会によるあっせんを受けることができます。
紛争当事者の間に、公平・中立な第三者として労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ります。
弁護士、大学教授、社会保険労務士などの紛争調整委員が担当し、裁判に比べ手続きが迅速かつ簡便です。
あっせんと他の紛争解決制度との比較

助言・指導とあっせんの労働紛争事例
労働紛争解決事例:1 いじめ・嫌がらせに関する助言・指導
申出人(正社員)は、同僚の一人から無視をされたり、怒鳴られたり、人格を否定するような言動を受けるようになったため、事業主に対し、職場環境の改善を求めて相談したが、仕方ないといって取り合ってもらえなかった。
申出人は、事業主との話し合いを通じた職場環境の改善を求めたいとして、助言・指導を申し出た。
事業主から事情を聴取した上で、労働契約法第5条に基づき、労働者の生命、身体等の安全に必要な配慮をすべき旨を説明するとともに、事態を放置するとパワハラにつながる可能性もあるため、労働施策総合推進法第30条の2の措置義務についても説明し、話し合いによる解決を図るよう助言した。
助言に基づき、事業主は、申出人との話し合いを重ね、人間関係の改善に向けて必要な措置を講じるなど、職場環境の改善に取り組んだ。
労働紛争解決事例:2 労働条件の引き下げに関する助言・指導
申出人(正社員)は、退職について事業主と合意していたところ、退職前に到来した賞与支給日に賞与が支給されなかった。
就業規則には、支給日に在籍する者に賞与を支給する旨記載されていたため、事業主に説明を求めたところ、事業主から「賞与は来期への期待に対して支給しているもので、退職予定者には支給しない」と説明された。
申出人は、事業主の説明に納得できず、評価に応じた賞与の適正な支払いを求めたいとして、助言・指導を申し出た。
事業主に対し、退職予定者の賞与を非退職予定者と比較して僅少な金額とする就業規則の規定を違法とした裁判例(東京地裁平成8年6月28日判決)があることを説明し、賞与の支給に向けて申出人と話し合うよう助言した。
助言に基づき、紛争当事者間で話し合いが行われ、事業主は申出人に対し、在職期間中の評価を考慮して、賞与10万円を支払うこととした。
労働紛争解決事例:3 解雇に関する助言・指導
申出人(正社員)は、特定の2日間を休日にすることを申し出て仕事を休んだところ、事業主から「明日から来なくていい」と解雇を通知された。
申出人は、事業主から「休みが取りにくい業務であるため、シフト上の休日の希望には柔軟に対応する」と説明されていたにもかかわらず、2日間休んだことを理由に解雇されることに納得できず、事業主に解雇の撤回を求めたが、受け入れられなかった。申出人は、解雇の撤回と復職後の休日確保への配慮を求めたいとして、助言・指導を申し出た。
事業主に対し、労働者を解雇する場合には、労働基準法第20条に基づき、少なくとも30日前の解雇の予告または解雇予告手当の支払いが必要であること、労働契約法第16条に基づき、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められなければ解雇は無効となることを説明し、解雇の撤回に向けて申出人と話し合うよう助言した。
助言に基づき、紛争当事者間で話し合いが行われ、事業主は解雇を撤回するとともに、他の労働者も交えた話し合いを行い、休みの申請ルールを定めたほか、交代で休日が確保できるよう勤務シフトの改善に取り組んだ。
労働紛争解決事例:4 いじめ・嫌がらせに関するあっせん
申請人(派遣労働者)は、派遣先での⾧時間労働や契約外の業務の強要、同僚からの暴言等の嫌がらせについて改善を求めて何度も上司に相談したが、改善につながらず、やがて、うつ病を発症して休業することになり、派遣元を退職するに至った。申請人は、休業により生じた経済的損害に対する賠償金として300万円の支払いを求めたいとして、あっせんを申請したもの。
あっせん委員が事業主の主張を確認したところ、事業主は、聞き取り調査を行ったが、嫌がらせ等に係る事実関係は認められなかったと主張した一方で、申請人が月100時間を超える時間外・休日労働を行った事実や仕事の影響でうつ病を発症して退職するに至った事実を認め、一定額の解決金を支払う用意がある旨を申し出た。
これを受けて、あっせん委員が双方譲歩可能な解決策を調整した結果、解決金として150万円を支払うことで合意した。
労働紛争解決事例:5 解雇に関するあっせん
申請人(正社員)は、能力不足を理由に事業主から突然辞めてほしいと告げられた。事業主から明確に解雇とは言われていないものの、退職勧奨に異論を唱えることができる状況にはなかったため、事実上の解雇に当たるとして、解雇の理由を明らかにした解雇理由証明書の交付を求めたが、事業主は、申請人を解雇した事実はないとして応じなかった。
申請人は、事業主に対し、解雇に伴う経済的損失に対する補償金として1年分の賃金相当額である550万円の支払いを求めたいとして、あっせんを申請した。
あっせん委員が事業主の主張を確認したところ、事業主は、申請人が退職勧奨に応じて自ら退職したのであって解雇ではない旨主張したが、紛争解決のため、一定額の解決金を支払う用意がある旨を申し出た。
これを受けて、あっせん委員が複数回にわたって粘り強く双方譲歩可能な解決策を調整した結果、解決金として90万円を支払うことで合意した。
労働紛争解決事例:6 労働条件の引き下げに関するあっせん
申請人(正社員)は、配置転換に伴う降格により、給与が減額されたものの、異動後2年間は賞与によって当該減額分が補填されていた。ところが、その後賞与による補填がなくなり、約400万円の経済的損失が生じた。
申請人は、事業主に対し、立て替えて支払った顧客の未払金45万円等を含め、合計約550万円の支払いを求めたいとして、あっせんを申請した。
あっせん委員が事業主の主張を確認したところ、事業主は、申請人の主張する給与・賞与年総額の減額は、主としてコロナ禍による業績悪化に伴う賞与の減額によるもの、また、立て替えて支払った顧客の未払金については、申請人が人事評価を上げるために勝手に行った約6万円のみと把握しており、この件については配置転換の際に考慮済みであるなどとして、申請人の請求する金額の支払いには応じられない旨主張した。
これを受けて、あっせん委員が2回にわたってあっせんを開催し、粘り強く双方譲歩可能な解決策を調整した結果、解決金として130万円を支払うことで合意した。
【労働紛争とは】相談数は15年連続で100万件超えに:まとめ
労働紛争を予防するためには、労働条件を明確に書面で示したり、就業規則を活用し、随時見直していくことが重要です。
労働紛争の原因の中には、上記例のように⾧時間労働や契約外の業務の強要がありますので、特にシフト制などで労働時間管理が複雑な場合は、シフト勤務に基づいた勤務時間集計が可能な勤怠管理システムなどを活用することで、適切な労務管理を行うことも紛争予防に役立ちます。
それでも労働紛争が起こってしまった場合は、個別労働紛争解決制度を使い、相談、助言・指導、あっせんを受けることで早期の解決をはかりましょう。
厚生労働省:令和4年度個別労働紛争解決制度の運用状況
(https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001114181.pdf)を加工して作成
