【離職理由から考える企業の対策】転職者増加の一方、労働者の定着が課題に

近年、日本の労働市場は急速に変化を遂げています。転職市場の活発化により、企業にとっては新しい人材の採用だけでなく、その定着を確保することが大きな課題となっています。特に、労働者の離職理由を分析し対策を講じることは、職場環境の改善や労働力の安定確保に繋がる重要な鍵と言えるでしょう。
この記事では、離職理由や労働市場の動向に基づき、企業の実務に役立つ対策を紹介します。
Contents
労働市場の現状
令和5年の1年間で、日本の労働市場では約850万人以上が新たに職を得る一方で、約798万人が離職しました。
一般労働者の入職率は12.1%、離職率も12.1%で、入職率と離職率がほぼ均衡している状態が明らかになりました。一方、パートタイム労働者では入職率27.5%、離職率23.8%と入職超過(3.7ポイント)が見られ、短期間で離職する労働者が多いことを示しています。
注目すべきは、一般労働者とパートタイム労働者の間で異なる動向が現れている点です。一般労働者の離職率は横ばいで安定傾向にある一方、パートタイム労働者の離職率は前年から0.7ポイント増加しています。
就業形態別入職率・離職率の推移

産業別の入職と離職
業種別労働市場の流動性
入職者数では「宿泊業・飲食サービス業」が最も多く、約173万人に達しています。次いで「卸売業・小売業」が約143万人、「医療・福祉」が約127万人となっています。
一方、離職者数でも「宿泊業・飲食サービス業」が最も多く約142万人、続いて「卸売業・小売業」が約135万人、「医療・福祉」が約116万人となっています。
これらの業種は入職者数と離職者数が共に多く、労働市場の流動性が特に高いことがわかります。また、全ての業種で入職者数が離職者数を上回っており、これらの業種で労働需要が高いことが推測されます。
就業形態別入職率と離職率
入職率と離職率を就業形態別に見ると、一般労働者の入職率は、「サービス業(他に分類されないもの)」が19.9%で最も高く、次いで「宿泊業・飲食サービス業」の19.8%が続きます。離職率では、「生活関連サービス業・娯楽業」が20.8%で最も高く、次いで「サービス業(他に分類されないもの)」が19.3%となっています。
パートタイム労働者の入職率では、「生活関連サービス業・娯楽業」が49.2%で最も高く、次いで「宿泊業・飲食サービス業」の40.5%が続きます。離職率については、「生活関連サービス業・娯楽業」が36.9%で最も高く、次いで「サービス業(他に分類されないもの)」が32.7%となっています。
サービス業(宿泊業・飲食サービス業)や小売業の流動性が高いのは、これらの業界の特性(シフト制、季節変動、パートタイムの多さなど)を反映していると思われます。
産業別入職率・離職率
一般労働者

パートタイム労働者

年齢階級別転職入職率
令和5年の転職入職率を性別および年齢階級別に見ると、60~64歳以上の年齢層では男性の転職入職率が高く、一方、55~59歳以下の年齢層では女性の方が男性よりも高い傾向が見られます。
また、転職入職率を就業形態別に分類すると、男性および女性ともに、「20~24歳以下」を除く全ての年齢階級において、一般労働者よりもパートタイム労働者の転職入職率が高いことがわかります。
年齢階級別転職入職率

離職理由
転職入職者が前職を辞めた理由を性別に見ると、男性では「その他の個人的理由」(17.3%)と「その他の理由(出向等を含む)」(14.0%)を除いた場合、「定年・契約期間の満了」(16.9%)が最も多く、次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」(9.1%)が続いています。
一方、女性では「その他の個人的理由」(25.1%)を除くと、「職場の人間関係が好ましくなかった」(13.0%)が最も多く、次いで「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(11.1%)となっています。
また、前年と比較した場合、転職理由の中で最も上昇幅が大きかったのは、男性では「仕事の内容に興味を持てなかった」が2.9ポイント増加し、女性では「職場の人間関係が好ましくなかった」が2.6ポイント増加しています。
離職防止のための企業の具体策
上記の労働市場の現状や離職理由を念頭に、離職防止のための対策を考えていきます。
1. 職場の人間関係改善
職場の人間関係が離職理由の上位に挙げられていることから、チームビルディング活動やコミュニケーションスキル研修の実施が効果的です。
また、ストレスチェック制度などを利用して、定期的な面談を行い、従業員が職場の人間関係で感じる悩みや不安を早期に解決できる体制を構築しましょう。
参照
【メンタルヘルス対策】職場でのストレス管理と予防の重要性
ストレスチェック制度を活用しよう!
2. 労働環境の整備と労働条件の見直し
労働時間や休日など、労働条件の改善が必要です。特に女性の離職理由として上位に挙がっているため、柔軟な勤務体制の導入を検討しましょう。
従業員のワークライフバランスを支援するために、シフト性やリモートワークなど、柔軟な勤務形態の導入や労働時間管理の徹底など、働きやすい労働環境の整備が必要です。従業員のワークライフバランスを支援しましょう。
参照
【シフト勤務の勤怠管理ガイド】労働基準法遵守とトラブル防止
【働きやすい職場とは】労働時間の管理がポイント
3.賃金の市場調査と見直し
給与が離職理由の一つとなっているため、定期的に市場調査を行い、自社の賃金水準を業界平均と比較・調整することで、競争力を保つ必要があります。特に、同業他社と比較して賃金が低い場合や、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差があると、従業員の不満が高まり離職につながる可能性があります。
参照
【賃金引上げ】中小企業向け支援を利用しよう
【「同一労働同一賃金」取り組み手順をわかりやすく
4. ワークライフバランスの促進
結婚、出産・育児、介護・看護などの個人的理由による離職を防ぐため、これらに対応した制度や支援策を整備することが重要です。
5. 人事評価制度の導入
明確な評価基準と目標を設定することで、従業員のモチベーションを高め、離職率を低下させることができます。特に20代の転職入職率が高いことから、若年層向けのメンタリングプログラムや早期キャリア形成支援を実施しましょう。
6.高齢者の活用と定着
60歳以上の転職入職率が高いことを踏まえ、高齢者の経験や技能を活かせる職場環境を整備し、定年後の継続雇用制度を充実させましょう。
これらの施策を適切に組み合わせることで、多様な年齢層や就業形態の従業員の定着率向上が期待できます。
参照
【65歳超雇用推進助成金】意欲・能力・体力のある高齢者を活用
【離職理由から考える企業の対策】転職者増加の一方、労働者の定着が課題に:まとめ
労働市場の流動化が進む中、企業にとって優秀な人材の確保と定着は喫緊の課題となっています。離職理由の分析から見えてくるのは、従業員一人ひとりのニーズに寄り添った人事施策の重要性です。
職場環境の改善、柔軟な働き方の導入、公平な評価・報酬制度の確立、キャリア開発支援など、多角的なアプローチが求められます。これらの施策を通じて、従業員の満足度を高め、企業への帰属意識を醸成することが、長期的な企業の成長につながるのです。
労働市場の変化に柔軟に対応しつつ、従業員の声に耳を傾け、継続的に人事施策を見直していくことが、これからの企業に求められる姿勢といえるでしょう。人材こそが最大の経営資源である現代において、従業員の定着と育成に注力することは、企業の持続的な発展への近道となるはずです。
厚生労働省:令和5年雇用動向調査結果の概況
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/gaikyou.pdf)を加工して作成
